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コラム

COLUMN

2021.03.10 Cat Friendly 動物の病気

【獣医師解説】猫の歯肉口内炎について

おうちの猫ちゃんの口臭は気になりませんか?
フードを食べにくそうにしたり、口を気にしたり、涎が多くなったり、毛繕いをしなくなったり、、、これらは全て歯肉炎の症状に当てはまります。

特に猫ちゃんでは重度の難治性歯肉口内炎に罹患することがあり、悩んでいる飼い主様も多くいらっしゃると思います。

猫ちゃんの歯肉炎はわんちゃんの歯周病とは少し異なる点があります。
そこで今回は、猫ちゃんの歯肉炎について解説していきます。

猫の歯肉炎ってどんな病気?

猫ちゃんの口腔内の炎症は、大きく3つのグループに分類されます。

①若年性
乳歯から永久歯へと生え変わる時期(生後4〜6ヶ月頃)に発生します。
生え変わりが落ち着くとそのまま治癒する子もいれば、歯周炎が進行していく子もいます。

②歯周病
蓄積した歯垢や歯石によって歯周病(歯肉炎・歯周炎)を起こしている状態です。
放っておくとどんどん歯周病が進行していきます。

③慢性歯肉口内炎
口腔粘膜に広く炎症を起こしている状態です。
特に喉の奥や頬の内側の粘膜にも炎症を起こしていることが多いです。
口や喉の奥が痛くてうまく飲み込めず、食欲の低下が6割以上の子で認められます。

全体的に歯肉が炎症を起こし肥厚しています
喉の奥が赤く腫れています(咽頭炎)

特に悩んでいる方が多い③の慢性歯肉口内炎は猫ちゃんの5〜7%程度で発生すると言われています。
純血種、ウェットタイプを主食としている、多頭飼育している猫での発生率が多くなる傾向にあるようです。
猫カリシウイルスや口腔内の細菌感染が発症に関与していると言われています。
他にも食物アレルギーや猫の免疫状態が関連しているという研究がありますが、現在でもはっきりとした原因は解明されていません。

どうやって治療するの?

基本的な治療法は内科治療と外科治療に分けられます。
どうしても麻酔をかけることができない事情がある場合を除いて、内科治療は根本的な治療にはならないため漫然と続けるべきではありません。
(※内科治療ばかりを長期に行った場合には、外科治療に対する反応が悪くなることが報告されています)

内科治療

・抗菌薬の投与:口腔内の細菌を減らす作用があります。
・抗炎症薬の投与:主にステロイドを使うことが多いです。
 即効性があり、炎症が軽減されるので多用されることが多いですが、長期使用では副作用の発現が懸念されるので、漫然と使い続けるべきではありません。
特に長期作用型のデポメドロールは昔から猫の口内炎に多用されてきましたが、当院ではその強い副作用から使用しておりません。
・インターフェロン製剤の投与:口腔内のウイルスを減らす作用があります。
・その他:鎮痛剤、免疫抑制剤、レーザー治療などを用いることもあります。

また口腔内の衛生状況を改善するためにご自宅でデンタルケア(デンタルジェル、歯磨きなど)を行うことも大切です。

外科治療

・スケーリング:口腔内の歯垢、歯石、細菌、ウイルスなどを減らすことができます。重度の歯周病が認められる歯は抜歯します。
・全臼歯抜歯:難治性の歯肉口内炎の場合に、全ての臼歯(奥歯)を抜歯します。
・全顎抜歯:全臼歯抜歯だけでは改善がない場合や犬歯付近の炎症が重度な場合、犬歯や切歯も抜歯します。

①の若年性の場合は、生えかわり完了後しばらくすると落ち着くことが多いのでまずは経過観察していきます。
なかなか治らない場合や悪化していく場合は内科治療・外科治療に進むこともあります。

②の歯周病の場合、通常は抗菌薬を投与することで症状が少し緩和されます。
つまり口の中の細菌を減らすことで良くなるため、スケーリングを行い原因となっている部分の歯石や歯垢をしっかり取り除くことで治癒が見込まれます。

③の慢性歯肉口内炎の場合、様々な方法を組み合わせても内科治療だけでは症状を抑えることが難しいことが多いです。最初は効果があっても、徐々に効かなくなってくることも多々あります。
そのため外科治療(全臼歯または全顎抜歯)が必要となってきます。

しかし、抜歯を提案すると非常に驚かれる飼い主様が多いことも事実です。
人間には同じような病気がないので「歯肉炎の治療になぜ抜歯?!」「歯がなくなってご飯食べられるの?!」と思われるのは普通のことだと思います。

猫ちゃんの歯肉口内炎は非常に特殊な病態で、はっきりした原因は不明ですが、歯や歯の根元に付着する細菌などに対し過剰に反応してしまい、重度の炎症を引き起こしていることが一つの原因と考えられています。

その細菌の住処を極限まで減らす=抜歯することが現在最も効果的な治療とされています。

前述した通り内科治療で粘れば粘るほど抜歯への反応も悪くなってしまいます。
そのため持病があり外科治療を行うことが不可能な場合を除いては、なるべく早く外科治療に進むことが望まれます。

おおよその目安ですが、全臼歯抜歯で60〜80%、全顎抜歯で80〜95%程度が完治もしくは著明な改善がみられるとされています。
(※術後に内科治療を併用する場合もあります)

もちろん抜歯後数日間は痛みがありますが、治癒してくればドライフードを食べることもできるようになることが多いです。

ただし歯の根元が残ってしまっている(残根)場合、抜歯しても改善が認められません。
そのため歯科用レントゲンなどを用い、抜歯後に残根が無いかを確認する必要があります。

もちろん猫ちゃんにとっても歯があるに越したことはありません。
今後詳しい病態の解明や新しい治療法が見つかれば、抜歯をしなくても済むようになるかもしれません。
そのような日が来ることを飼い主様だけでなく獣医師も待ち望んでいます。

猫ちゃんの歯肉炎・口内炎でお悩みの方はご相談ください。

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