福井藤島どうぶつ病院 福井藤島どうぶつ病院

コラム

COLUMN

2020.09.14 動物の病気

【獣医師解説】スケーリング(歯石除去)について

歯石が付いてきたからそろそろ取ってもらおうかな?でも実際どんなことするんだろう?
歯を綺麗にするだけなのになぜ麻酔をかける必要があるの?
そんな疑問を持っている飼い主さまも多いのではないでしょうか。

残念ながらインターネットで「犬 歯石除去」と検索をすると、無麻酔での歯石除去についてや自宅で無理やり歯石を取る道具、〇〇するだけで口臭が!などという謳い文句の製品などが上位にヒットします。
これは非常に危険な状況であり、正しい情報を飼い主様に知っていただく必要があると感じています。

そこで今回はスケーリング(歯石除去)について解説していきます。

スケーリングの目的

スケーリングの目的は「歯石を取ること」「口臭を減らすこと」と思われているかもしれませんが、正しくは「歯周病の予防、治療をすること」です。

歯周病の原因は歯石ではなく、主に歯垢やプラーク(歯の表面や歯肉に付着した細菌とその産生物)です。
ただし歯石の表面はザラザラしているので、食べカスやプラークが溜まりやすくなってしまい、結果的に歯周病を悪化させる原因になります。

スケーリングでは歯の表面だけでなく歯肉縁下の歯石、歯垢、プラークをしっかり除去することで歯周病の治療を行います。

そして歯石を取って終わりということではなく、そこからのデンタルホームケア(プラークコントロール)がとても大切になります。
ホームケアで取りきれない歯垢や蓄積してしまった歯石をスケーリングで除去し、口腔内をリセットするようなイメージです。

実際には重度の歯周病になって様々な症状(口臭やよだれがひどい、顔が腫れてきた、くしゃみが出るなど)が現れてから相談されることが多いです。

このように歯周病が悪化しすぎて歯を支える骨が溶けてしまっている場合には抜歯せざるを得ず、残念ながらかなりたくさんの歯を抜くことも少なくありません。
※わんちゃんはこの状態でも普通にご飯を食べていることが多いので、食べられているからといって歯が大丈夫とは言えません。

スケーリングは本来歯や口を健康な状態に保つために行うものですので、ここまで進行してしまう前にご相談ください。

歯周病についてさらに詳しくはこちらをお読みください。

スケーリングの流れ

スケーリングの流れはこちらを参照してください。
超音波スケーラーという器機を用いて、歯の表面だけでなく内側や歯周ポケットなど隅々まで綺麗にし、歯周病の程度によって様々な治療をおこないます。
軽度の歯石・歯肉炎であれば処置時間は30分程度で済みますが、重度の場合や抜歯の本数が多い場合は3時間以上かかることもあります。

費用に関しても、年齢や歯石の付着具合、歯周病の進行具合によって変動します。
また麻酔をかけて口腔内の精査を行ったり歯石を除去してみて初めて、歯の状況がわかる(思っていたよりも歯周病が進行していた)ケースも多いです。そのため事前にいくらと確実な金額をお伝えすることが難しく、術前にはおおまかな費用の目安だけお伝えするようにしています。

どうして麻酔が必要なの?

スケーリングの流れをみておわかりいただけるかと思いますが、これらすべての工程を歯磨きですら嫌がることが多いわんちゃん、猫ちゃんに対し無麻酔で行うことは不可能です。
歯科医院でスケーリングをしたことがある方は、少しチクっとする感覚があったのではないでしょうか。
スケーリングは歯石が多ければ多いほど痛みを伴います。
わんちゃん、猫ちゃんにとっても施術者にとっても安全に、そして最大の効果を得るためには麻酔下でのスケーリングが必須です。

無麻酔歯石除去は目に見える歯石を無理矢理こそげ落とすことで歯石が無くなり綺麗になったように見えるかもしれませんが、歯の裏側のケアや研磨等を行うことができないため、歯石が付着しやすくなってしまいます。
さらに肝心の歯周ポケット内の清掃が不十分になるため、歯周病の治療にはならず、気付いた時にはかなり悪化してしまっていることもあります。
また痛みや恐怖を伴うため、無麻酔歯石除去後に口を触らせてくれなくなり、ホームケアができなくなるといった例も多発しています。

他にも剥がれ落ちた歯石(細菌の塊です!)を誤嚥し肺炎を起こす可能性がある、根本が残ったまま歯が折れてしまう可能性がある、施術者に十分な獣医療の知識がない(認定資格があるようですが、ほとんどの施術者は獣医師ではありません)など、無麻酔歯石除去が危険・有害である理由はたくさんあります。
無麻酔歯石除去は仰向きで保定することが多いようですが、緊張してうまく呼吸ができなくなってしまう子や呼吸器・心臓などに問題のある子、肥満の子などを長時間仰向きにすることはかなりのリスクを伴います。
「うちの子は持病があって麻酔をかけられないから。。。」と安易に選択することは避けてください。

当院では持病があり麻酔が難しいなどスケーリングが困難な場合には、内科治療やレーザーによる痛みの緩和などを提案させていただいております。

日本小動物歯科研究会が無麻酔歯石除去について声明を出しているので詳しくはこちらをお読みください。無麻酔下での歯垢・歯石除去

スケーリングが長生きの秘訣!?

避妊手術や去勢手術により寿命が長くなることはすでにご存知の方も多いと思いますが、つい最近スケーリングに関してもそのような論文が発表されました。
それは『年に1回のスケーリングは死亡リスクを18.3%低下させる』というものです。

この結果から、年に1回麻酔をかけるリスクよりも、歯周病が悪化していく方が健康への影響が大きいと考えられます。

※アメリカ動物病院協会(AAHA)の歯科ガイドラインでは1歳以上の犬では年に1回の麻酔下での口腔精査・スケーリングが推奨されています。
この研究もアメリカで行われたもので、アメリカでは検査などの際に鎮静を行うなど、少し日本とは異なる背景があることも関わっていると思います。

日本では全身麻酔をかけることに対して多少の抵抗がある方は多いと思います。
そのため、当院では少なくともシニア期(7歳〜)に入る前に1度はスケーリングすることをおすすめしています。

しかし実際は若齢でも歯周病が進行している子は少なくありません
一度スケーリングをしても早い子では半年ほどで元の状態に戻ってしまうこともありますので、その子その子の口の状況に合わせてスケジュールを組んで行くことが大切です。
少しでも歯石が付着してきたことに気づいたら、スケーリングを行うことで長生きにつながるのかも、と思い出していただきたいです。

当院は開院以来多数の歯に関するご相談をいただいております。
お口の健康は生涯おいしく食事をとるためにとても大切です。
早めに治療を開始することでシニア期まで健康な歯をたくさん残してあげることができます。
口臭、歯石など少しでも気になることがあればお気軽にご相談ください。

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