コラム
COLUMN
2018.12.04 動物の病気
【獣医師解説】犬の歯周病ってどんな病気?
大人になった多くの犬には歯周病が存在しているのをご存知でしょうか?
歯周病を放置すると、口臭がきつくなるだけでなく、痛みの原因になったり、心臓や腎臓の病気を引き起こす原因になってしまうと言われています。
そんな多くの犬で問題になっている歯周病についてまとめてみました。
※猫ちゃんの歯肉口内炎についてはこちらをお読みください。
【獣医師解説】猫の歯肉口内炎について
歯周病とは?
歯周病を引き起こす細菌によって歯茎に炎症が起き(歯肉炎)、歯を支えるための歯周組織が破壊されてしまう(歯周炎)病気です。歯垢や歯石が溜まっているにも関わらず、そのまま放置してしまうと歯周病が進行してしまいます。
人では高齢になるに従って歯周病になりやすくなりますが、犬は若くてもほとんどの子が歯周病に罹患していると言われています。
特に大型犬と比べて口の小さな小型犬(トイ・プードル、ミニチュアダックスフント、ヨークシャーテリアなど)は、歯周病になりやすいため注意が必要です。
↑軽度の歯周病(1歳8ヶ月)
↑中程度の歯周病(8歳)
↑重度の歯周病(8歳)
歯周病が引き起こす症状
歯周病は放っておくと口内だけでなく、さまざまな問題と繋がっていきます。
口臭の悪化…歯周病患者の口腔内は、さまざまな細菌を育てているような環境ですので、放置すればするほど口の臭いがひどくなっていきます。
痛みによる食欲の減退…時に強い痛みを伴うので、食事の時間が苦痛なものに変わってしまうこともあります。
歯周組織の破壊…歯肉が減退したり、歯槽骨(歯を支えるための骨)がどんどん溶けてしまいます。一度破壊された組織は治療を施しても元通りには治りません。
↑歯を支える骨がほとんど溶けてしまっています。
あごの骨折…重度に歯槽骨が溶かされることによって、下顎の骨折が起きることがあります。
鼻炎…歯周組織が破壊された結果、炎症が鼻腔にまで達することがしばしばあります。鼻水やくしゃみの多くの原因が歯周病である可能性があります。
歯根膿瘍…歯の根元に膿(細菌の塊)がたまり、鼻の横や目の下の皮膚が腫れ上がります。それを放置すると皮膚が破れて、膿が皮膚から流れてくることがあります。
腎臓病/心臓病…歯周病菌が原因となり発症する可能性があります。発症してしまうと腎臓病や心臓病は完治することが難しく、命に関わる病気です。
※実際に「口の臭いがひどい」「口が痛そう」などの主訴で来院される高齢犬のほとんどは、検査で何らかの異常(腎数値や肝数値の上昇、貧血、心雑音など)が認められます。このような場合は麻酔のリスクも上昇してしまうため、治療するためには早めの受診が望まれます。
歯周病の治療は?
歯周病の治療にはスケーリングやポリッシングという処置を行うことが一般的です。また、重度の歯周病の場合は抜歯を行う必要がでてきます。
スケーリング…動物に全身麻酔をかけた状態で、超音波スケーラーという機械を用いて歯石除去や歯周ポケットの清浄化などの歯科処置を行います。麻酔をかけずにこのような処置をすることは大変危険で、逆に歯周組織を傷つけてしまい症状を悪化させる可能性があるため、基本的には無麻酔でのスケーリングは行いません。
ポリッシング…スケーリングで歯石を除去した後、歯の表面のデコボコをつるつるに磨く処置を行います。ポリッシングを行うことで、歯垢や歯石が沈着しにくくなります。
抜歯処置…歯槽骨の破壊が重度であったり、歯根膿瘍が認められる場合は抜歯処置も選択肢になります。
↑スケーリング・ポリッシング前後の同じ子の写真です。
歯周病の予防法は?
歯周病により一度破壊された歯周組織は元の健康な状態には戻ることができません。また、人の歯と同様に、犬の永久歯も抜いてしまったら新たに生えてくることはありません。健康な歯を維持するためには、歯周病にならないための予防がとても大切です。
歯周病の予防には日々のオーラルケア、特に歯磨きがとても重要になってきます。
歯磨きの練習法はこちらをお読み下さい。
また、歯周病を早期に発見して、歯垢や歯石のたまりが軽度な時期から積極的に治療を行うことも大切です。
最近「年に1回のスケーリングが死亡リスクを低下させる」という研究データも発表されています。
「飼い主と飼い犬の口腔内から同じ歯周病菌が検出された」という報告もあります。人間にとっても歯周病は重要な感染症です。
今年「歯周病と認知症には因果関係がある」という報告もなされていますので、歯周病は放置しないようにしましょう。
軽度の歯周病は治療するべき?
上記の通り、歯石除去などの歯周病の治療には全身麻酔が不可欠です。若いうちは元気だからと歯周病を放置した状態で歳を重ねてしまった場合、重症化して痛みでご飯が食べれなくなってしまった時にはすでに「高齢」「歯周病に関連した腎臓病/心臓病」「その他の持病」などの理由により全身麻酔のリスクが高まってしまいます。
そういった事態に陥らないように、若いうちに定期的に歯科検診を受診し、必要に応じてしっかりと治療を行うことが、将来その子の歯の健康を維持し、高齢での全身麻酔を回避することに繋がります。
お口のトラブルは動物病院にご相談ください
歯周病は口臭の悪化から命に関わる病気にまで繋がる可能性のある病気です。そのため、若いうちから『自宅でのオーラルケア→定期検診→治療』を継続して行う必要があります。
大切な家族の歯の健康を守るために、何か不安なことや、歯磨きなどで困っていることなどがございましたら、当院までご相談ください。