コラム
COLUMN
2018.12.03 Cat Friendly 動物の病気
【獣医師解説】猫の腎臓病(慢性腎不全)の原因・症状・治療・予防法は?
猫は他の動物に比べて腎臓病にかかりやすく、腎不全は多くの猫の死因となっています。愛猫がこれから腎臓病にかからないか心配な飼い主様や、現在この病気に苦しんでいる猫もたくさんいることと思います。腎臓病を発症しないために、また腎臓病を早期に発見できるために、以下に猫の腎臓病についてまとめました。
また、高齢猫に発症しやすい他の病気について知りたい方は「猫の甲状腺機能亢進症についてのコラム」「猫の糖尿病についてのコラム」も合わせてお読みください。
腎臓の役割は?
腎臓にはいくつかの機能があります。主には、
①体内の老廃物を尿として体外に排泄する機能
②体の水分バランスを整える機能
③血液を作るホルモンを生産する機能
などがあります。
腎臓病に罹患すると、これらの機能障害がおこるので、
①体内に老廃物が蓄積する
②脱水をおこす
③貧血をおこす
などの症状が認められます。
腎不全の症状は?
上記の①~③の症状について詳しく見ていきましょう。
①体内に老廃物が蓄積する
腎臓の機能が低下した結果、本来排泄されるべき老廃物が体内に蓄積してしまいます。簡単に言えば、「体の中に毒素がどんどん溜まり気持ち悪くなる状態」といえばわかりやすいでしょうか。BUN(尿素窒素)・CRE(クレアチニン)・P(リン)などが、血液検査で測定できる老廃物として知られ、腎臓病の診断に役立ちます。
これらの老廃物が溜まることで引き起こされる症状は多岐に渡りますが、多くの症例で見られるのが消化器症状です。口腔・胃・腸の粘膜は腎不全の時に障害を受けやすく、その結果、食欲不振や嘔吐、下痢、口臭の悪化などの症状が認められます。
②脱水をおこす
体内の水分バランスを調整する機能が失われることで、尿を濃縮することができずに、健康な時に比べておしっこの量が増えてしまいます。その結果、体内の水分が尿として大量に排泄されるため、体は脱水をおこしてしまうのです。
脱水があるかないか、またその重症度は、身体検査や尿検査、血液検査などで調べることができます。
脱水をおこすと腎臓病がさらに進行してしまう悪循環に陥るだけでなく、腎臓以外の臓器にも障害がおきることがあります。
脱水時の主な症状は、水をたくさん飲む、食欲不振、元気消失、便秘などです。
③貧血を起こす
腎不全の状態が続くと、腎臓から産生されるエリスロポエチンというホルモンの量が低下し、その結果、貧血をおこしてしまいます。
貧血は血液検査などで診断します。
舌の色がうすいピンク色になったことに気付いた結果、腎臓病が発覚することもあります。
上記の通り、腎不全の症状は多岐に渡ります。何か不調が発見されれば、腎不全である可能性が十分にあるので、早めに検査することをお勧めします。
以下に腎不全患者に多く見られる症状をまとめたので参考にしてください。
元気がない
食欲がない
嘔吐をしている
下痢をしている
便秘ぎみ
口臭が増した
水をたくさん飲む
おしっこの量が増えた
慢性腎臓病の原因は?
現在のところ、慢性腎臓病の原因について多くは解明されていません。もちろん、人と同様に、食生活の乱れ(塩分の多い食事やおやつなどの多給)が原因になることもありますが、猫の場合規則正しい食生活をしていても発症してしまう子もいます。
また、日常的に飲水量が少ないことが原因でおこる可能性も示唆されています。
慢性腎臓病の予防は?
この病気を完全に予防することはできません。しかし、規則正しい食生活、適度な運動などは発症のリスクを下げるかもしれません。
また、この病気で一番重要なのは定期的な健康診断による早期発見です。
慢性腎臓病は早期に治療介入をすることで、生活の質を上げ、余命も長くなることが報告されています。
特にシニア(7歳以上)の猫を飼っている飼い主さまには、年に2回(最低でも年に1回)の健康診断をお勧めします。
慢性腎臓病の治療は?
残念ながら慢性腎臓病は治る病気ではないので、生涯のケア・治療が必要となります。
この病気の治療で、特に重要なのが脱水の改善です。
上記にも記載しましたが、腎臓病は脱水を引き起こし、脱水は腎臓病を悪化させる、という悪循環に陥り、どんどん体調が悪くなってしまうのがこの病気の怖いところです。
脱水を改善させるためには、家での食事や飲水環境を改めることで、自らの口から摂取する水分量を増やす方法や、病院で皮下点滴・静脈点滴を行う方法があります。
点滴はすればするだけ良いというわけではありません。逆に過剰な水分が体内に投与されると(この状態を過水和と言います)、腎臓を酷使させ、腎臓病の悪化につながると言われています。
脱水を改善し、なおかつ過水和にならないように治療をしないといけないため、点滴の量や頻度などは身体検査や血液検査を参考に随時調整していかなければいけません。
現在闘病中で、数日に1回や週に1回などのペースで病院に通い点滴を受けている子も多くいると思います。適切な点滴量や頻度は随時変化していきますので、闘病中においても定期的な血液検査が必要になってきます。
体内に蓄積した老廃物の排泄を促し、老廃物が産生されづらくしていくことも大切です。
そのためには、獣医師の指示のもとに適切な処方食を与えることや、サプリメントなども有効になります。
また、透析(血液透析、腹膜透析)により、体内に蓄積した老廃物を取り除く方法もありますが、慢性腎臓病で透析を行うケースは獣医療ではまれです。
消化器症状(嘔吐や下痢など)や貧血などが認められれば、それらに対する対症療法を行います。
まとめ
猫の慢性腎臓病は高齢になればどの子も発症する可能性がある病気です。
定期的な健康診断を行うことで、早期発見に努めることが第一です。
もし、愛猫が慢性腎臓病と診断された時は、獣医師の指導のもと生活環境を整え、適切な治療を行うことで、症状を緩和させることができますので、少しでも体調がおかしいなと思ったら早めの受診をお願いします。
また猫ちゃんの飼い主さんに知っておいてほしいことをまとめておりますので、こちらもご一読くださいね。